その日、自然があった。人があった。
ワイパーが動いた。人はもっとたくさん動いた。
『perfect days』の役所広司のようにカセットをかけて運転できるわけでもなく、CDをかけて走る。
リーコニッツは爽やかな西海岸のジャズだ。
演奏ももちろんいいが、演奏が始まる前のアナウンスが一番粋だ。
『未必のマクベス』、『父がしたこと』、『類』。
洋書が並んでいるが全てダミーで、おしゃれな感じを作り出している本屋でいくつか手に取る。
コーヒーショップでコーヒーを買って、帰り際に、惹きつけられた、曽野綾子の『夢幻』を読む。しっかりと読む。
立ち読みでも、いい本はいい本だとわかる。そうした特別な出会いが本屋に行く理由である。出会いがある時もあるしない時もある。
いい文章だ、と思う。簡潔でもハリがある。
北陸のどんよりとした曇り空からポツポツと雨が落ちる。
本屋を出て、車に乗り込み、カーナビを見る。
ふと、「地図で見る海って最高じゃね?」と言った友人の言葉を思い返す。
は?というと、海の近くにいるんだとわかる、という。
そして、その先にも海があるんだと。
いつこの幻想から解き放たれるのか、と思っていた。
地図上の海は、富山湾、の文字が霞んでいた。
古いカーナビである。
ところどころ、反映されない道がある。
道も人の営みと同じように、昼から夜に変わるように、うつろう。
この海への道も、地図上で表されない道が、幾つもあったのだろうと思う。
一月一日。それは最悪な新年の始まりとして記憶されるだろうか。
それとも、ありふれた1日となるだろうか。
家に着くと、温かいご飯が待っている。