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事始

俺はこんな馬鹿なやつだとはこれまで知らなかった。

晶は、ひどく落ち込んだ様子でそういった。

何があったのか、聞くまでもなかった。

ああ、またやったのか。

そんな言い方よしてくれよ、まぁそうだけどさ。

 

晶のやつは、単純なよくある忘れっぽいやつだったのだ。海へ行こう。少しは気晴らしになるだろう。

俺たちは、よく海へ行くことを日課にしていた。それが悲しい時も楽しい時も、

心のオアシスになるんだと、言い合ったものだったが、それは俺がいったんじゃない

あまりに恥ずかしい言い方じゃないか。

 

「自傷することはもうやめたんだ、ほんとだ」

晶はそういったが、どうも疑い深かった。そんなこと、本当なら本当だと力強く言わないはずだ。晶は傷のついた腕を見せびらかした。

「別に構わないさ」

晶は自暴自棄になっているような感じだったが、海の気配が、二人の距離を均等に隔てていた。おそらくそれがここに来る理由だったのだろう。

あの丘の方へ、行ってみないか。

俺は、晶に提案した。晶は渋々オッケーと言った。

 

コリントの丘、と呼ばれていた、その小高い海沿いの丘は、一番奥に展望台があり、日本海を一望できた。俺たちはいつもそこまで行って、裸眼で海を見つめては、引き返すのだった。

この展望台の意味って…。特にないよ、あんなの、海なんてどこまでも海じゃないか。

歌みたいな。

そう歌と一緒だ。